老舗企業こそ変化を恐れないのかもしれない(「百年続く企業の条件」より)
「百年続く企業の条件 老舗は変化を恐れない」の老舗に関するアンケート結果が面白かったです。これは、帝国データバンク資料館によるアンケートで、1912年までに創業、設立した企業の中から4000社を抽出し、814社から回答を得たものです。
- 信 197社
- 誠 68社
- 継 31社
- 心 28社
- 真 24社
- 和 23社
- 変 22社
- 新 22社
- 忍 19社
- 質 18社
圧倒的一位は「信」、次いで「誠」「継」「心」「真」と続きます。この辺はなるほどという感じですが、面白いのは「変」と「新」が入っていること。実際に企業に話を聞くと、次のような答えが返ってくるとのこと。
「うちは老舗といわれるけれど、変革し続けてきたからこそ現在があるのですよ」(p18)
事例の企業からも次のような声が紹介されています。
「老舗といえども中小企業だから、耐えなきゃならないことばかりですよ。でもそこで過去を振り返るだけだったら、結局今までやってきたことの検証しかできない。世の中の変化が激しいから、次のことを考えていかないと埋没してしまう」(p111)
―エイラクヤ 代表取締役社長 細辻伊兵衛氏
「360余年という伝統は、守ることではなく変化に対応するための"革新の連続"だ」(p117)
―ヤマサ醤油 代表取締役社長 濱口道雄氏
また、創業時から変えたもの、変えていないものというアンケートでは、「一部変えた」「すべて変えた」をあわせると次のようになります。
- 販売方法 78.7%(「一部変えた」65.6%、「すべて変えた」13.1%)
- 商品/サービス 72.4%(「一部変えた」62.4%、「すべて変えた」10.0%)
- 主力事業の内容 56.3%(「一部変えた」48.8%、「すべて変えた」7.5%)
- 製造方法 55.3%(「一部変えた」45.7%、「すべて変えた」9.6%)
- 家訓、社訓、社是等 27.8%(「一部変えた」21.3%、「すべて変えた」6.5%)
もちろん、「すべて変えた」という回答は大勢ではなく、10%前後の割合ですが、逆に言うと10社に1社が何かを「すべて変えた」経験を持っているということになります。また、社名や屋号を変えた企業もあわせると46.7%と半数近くにのぼっています。
分析では、「逆に、質問した項目すべてについて、「変更なし」の企業が3.1%あるのが、驚きといえるかもしれない」(p26)と述べられているように、変えないことの方が珍しいと言ってよいのかもしれません。
また、「老舗の強みは何か」という質問に対する回答では、
- 信用 73.8%
- 伝統 52.8%
- 知名度 50.4%
- 地域密着 43.1%
- 信頼が厚い 37.5%
と続くのはなるほどという感じですが、「進取の気性がある」も9.8%入っています。また、数は多くないものの「変化に対して慣れていること」という回答もあったそうです。
さらに、「今後も生き残るために必要なもの」としては、「信頼の維持、向上」が65/8%で1位で、これもなんとなく予想できますが、面白いのは2位です。2位は、「進取の気性」で45.4%入っています。これは強みとしてあげる企業もありましたが、今後必要なものとして強く意識されているようです。
この結果に関して、本書では次のように述べられています。
「伝統を重んじて変化を避けると思われがちな老舗企業だが、実際は時代に合わせて変化を続けなければ生き残れないということを、身をもって知っているからこその高い回答率であるといえる。」(p33)
「老舗企業」=「保守的」とは限らないのです。むしろ、革新を続けてきたからこそ生き残っている企業も多いことがこのアンケートから示唆されています。一見逆説的に聞こえるかもしれませんが、老舗企業こそ変化を恐れないのかもしれないと感じました。むしろ、スタートアップ企業が一度成功した後の方が変化に対する抵抗が強いのかもしれません。
ただ、どんな企業も、まったく変わらないとか全部変えるとかいう1か0かの話ではなくて、変えるところを変えて、変えないところは変えないという話なのだと思います。百年、二百年、三百年と続いていくには、何を変えて何を変えないのか、この見極めが一番大事なんだろうなーと感じました。
ところで、最初の漢字の話。変わったところでは「涎」(よだれ)というのもあったらしいです。解説では「近江商人や大阪の商人がよく使う「商いは牛の涎」(商売は牛の涎が細く長く垂れるように気長に辛抱せよという意『広辞苑』」(p19)と書いてある(「百年続く企業の条件」の老舗に関するアンケート結果)これはこれで面白かったです。