岡田武史さん講演まとめ

会社の人から岡田武史さんの講演会の席があるから行かないかと聞かれ、2つ返事で行ってきました。メモったことを備忘のためにまとめておきます。

震災について

自分に何ができるかということを考えて悩んでいた。車にサッカーボールと物資を積んで、協会の人と2人で代わりばんこに運転しながら被災地に行って、サッカー教室を開催した。参加した子供たちは最初は心を閉ざしていたが、1時間もサッカーをしていると笑顔になってきた。子供が元気になると大人が元気になっていた。スポーツの力はすごいと感じた。


日本全体がダメージを受けている。ニュースも暗い話ばかりだが、子供を明るくすることで元気になっていけば。


積み上げ

レンガの話
レンガを縦にずっと積んでいっているだけだと壊れてしまう。どこかの時点で横に積む必要がある。しかし、横に積む人は評価されない。岡田監督がチームを引き継いだ時にそれまでの監督の積み上げがあった。ジーコも横に積んでくれていた。


ゾーン

2010年ワールドカップのチーム

経験したことのないチームになった。4連敗してマスコミが叩いてくれたおかげでああいう形になった。カメルーン戦の前日、良い試合をするなと感じた。勝った瞬間に特殊な状態に入った=ゾーンに入った。ハーフタイムにロッカーから戻ってきて何か言おうととして選手の様子を見たら、皆分かってますという様子。
1か月のキャンプでけが人、熱を出した人などの病人もゼロ。これはすごいこと。


岡田さん自身の経験

インドでの韓国との試合のときに左足ですごいミドルシュートを決めた。風間八宏からパスを受けたところまでは覚えているが、気づいたらネットにボールがピタッと止まっていた。その後いくら練習してもだふっていた。



信じ切る

試合に勝つと言っている時、信じよう信じようではなく、信じ切ってますという状態。浦和レッズとのチャンピオンシップのとき、3日間のミニキャンプを開催。
その時に選手に向けて言った言葉↓
残念ながら今の時点ではレッズの方が力が上だ。しかし、勝つ方法はある。一回しか使えないが、これしかない。ホーム&アウェーで1試合目はどんなにたたかれようが0-0で乗り切り、2試合目にその手を使おう。


ところが…
1試合目にその手で買ってしまった。本当は0-0の想定。みんな喜んでいたが、自分はどうしようと真っ青になっていた。


ただ…

グラウンドでの練習をみていると、すばらしい練習をやっている。笑顔だが、たるんでいるのではなく、ピリッとした雰囲気。「オレ勝つな」とふと感じた。



迎えた埼玉スタジアムでの第2試合。試合は選手が1人退場し、0-1になったが、勝つと思っていた。そうしたらトータルで1-1になり、延長戦に突入した。いつもならいろいろ細かい指示を出していたが、行って来いとしか言わなかった。選手たちもきょとんとしていた。


延長戦はVゴール式でPK戦が無かった。延長戦終了間際、トゥーリオがすごいヘディングでシュートを打って、ベンチは総立ちになった。岡田さん1人だけ座っていた。オレは勝つんだからここでシュート入ったら勝てねえじゃんと思っていた。


自責

パラグアイ戦も勝つと信じ込んでいた。タイムアップの瞬間から何で勝たしてやれなかったのかとずっと考えた

→勝利への執着が自分に足りなかったという結論。


何のため

何のためにこんな割に合わない仕事をしているのか。自分のためももちろんある。いろいろあるけど、一番はチームのスタッフ、家族を喜ばせてやりたい。これが、日本中のサポーターを喜ばせてやりたいと思っていたら勝てたかもしれない。リーダーのスケールはそういうところから出てくるのかもしれないと思う。


チームのために

23人の選び方。うまい順に23人並べても勝てない。23人いると、試合に出られない人が出てくる。そこを踏まえた上でどういう人を選ぶか。


川口の話
スタメンから外したのは岡田さん。次第にチームからも外した。しかし、ジュビロの監督に電話をして様子を確認していた。話を聞くと、「ヨシカツは失っていない」とのこと。そこで選んだ。ワールドカップメンバーの中で非常に重要な役割を果たしてくれた。部屋を回って何か問題ないかなどと聞いてくれていた。


俊輔と楢崎の話
2人ともワールドカップにかけていた。それを知っていたが、レギュラーからは外した(岡田さんいわく「鬼の所業」)。しかし、その後の2人の行動が素晴らしかった。普通は外された後は部屋にこもって出てこなくなったりする。2人はリラックスルームに出てきて皆と一緒にビデオを見たりしていた。練習では率先してガンガンやる。これにより、若い選手はサボれない。試合に出ている選手もガンガンやる。


中澤の話
キャプテンから外した。理由はいろいろあるが、その1つとして俊輔や楢崎と親友だったことがある。シュンとナラが外れてチームを引っ張っていけるかということを考えたときに、中澤は優しいところがあるのでなかなかそうはいかないかもしれない。そこで長谷部をキャプテンにするということを告げた。本人もいろいろ思うところがあったとは思うが、翌日からの練習でも先頭で走って皆を引っ張っていってくれた。


開き直る

フランスワールドカップの時の経験
脅迫されて警察に警備されていた。子供の送り迎えも車でやっていた。食べ物をもらっても怖くて食べられなかった。


ジョホールバルの前日。もし負けたら日本に住めなくなるかもと奥さんに電話していた。でもちょっと待てよと考えた。日本のサッカー界を自分一人では背負えないと開き直った。自分は持ってる力を出して精一杯やる。開き直ったら完全に怖いものがなくなる。これでダメだったらおれのせいじゃない、おれを選んだ会長のせいだと考えた。


遺伝子にスイッチ

遺伝子にスイッチが入った。今、安全・便利・快適な社会で生活しているので生きる力が落ちているのではないか。家畜と一緒。子供の頃は鉄橋とかを渡って危ないこともしていたが、そういう時に脳にスイッチが入った。


地震が起きた後、若い人が積極的に行動を起こしている。若い人が悪いわけではない。我々が作ってきた社会が遺伝子にスイッチを入れるチャンスをなくしてきたのではないか。じゃあどうするか。スポーツや文化。目標を作ってチャレンジする機会を作る。


リーダーの資質

田坂広志さんの言葉
一番大事なのは登るべき山を持つことだ。夢、ビジョンを掲げて山を必死になって登っている、その姿をみて人はついてくる。聖人君子に人がついてくるわけではない。登るべき山に、何のために登るのかということを考えていくことが大事。


監督の仕事

最終的に監督の仕事は1つ、決断すること。この選手を使ったら勝率50%、60%というふうにはならない。コーチに聞いて多数決で決まるわけではない。たった1人で責任を背負って決断しなければならない。
論理的に考えて答えが出ないならどうするか→勘
経験を積むと勘をとる勇気が出てくる。勘をとるにはコツがある。こんなことをしたら選手がふてくされるのでは、マスコミに叩かれるのではとか考えたらダメ。すっと座って素の状態になってふっと浮かんだ方をとる。それをとったらとった後は振り返らない。そうすると結構当たる。
ただ、そうそうは素の状態にはなれない。でもどん底を知っているとそれに近い状態になれる。経営者でも戦争や闘病などの極限状態を経験している人はそういう能力がある。


決断

決断するときは素になって私心が無いように決める。
池宮彰一郎「義、我を美しく 」という本があるが、決断する時は、「おれの生き様って美しいかどうか」と自分に向って問いかける。
義、我を美しく (新潮文庫)

義、我を美しく (新潮文庫)



選手とのコミュニケーション

選手とは酒を飲まない。奥さんを知ってて仲人をして、外すということはようできない。最終的には誰かを外さざるを得ない。その時に外すことができるように。自分の弱さを知っているので一線を引く。


覚えているのが、ジーコがワールドカップメンバーを選んだ時に、久保の家族がマリノスのクラブハウスに来ていた。娘が「ジーコ、大っきらい」と叫んでいた。たぶん今回も「岡ちゃん、だいっきらい」と叫ばれていただろう。



選手に愛情はもっていないといけないが、媚を売るのではない。選手に伝えること。お前のことは能力あるから呼んでいる。ただ、おれは自分の考えにもとづいて決断する、それで納得がいかないなら、あきらめるから出ていってくれと伝える。どんな有名選手に対しても一緒。


チームで大事なこと

  • 目標設定
  • フィロソフィー
  • チームモラル



チームモラル

コンサドーレ時代の話
ロッカーがごちゃごちゃで良い練習ができるはずがない。新年度を迎えるに当たってロッカーがきれいになっていたけど、名札は去年のまま。この状態で、本気で今年はさあいくぞと思えるか、思えない。クラブの人を呼んで話をした。


マリノス時代のコーンを回る練習の話
コーンの外側を走る練習だが、当初、3分の2が内側を走っていた。外側を真面目に走るなんて格好悪いという雰囲気があった。選手に、なんで外側を走るのか聞くと、内も外もそんなに変わらないという答え。内も外も変わらないんなら外を走れと伝える。


ただ、ここで、各コーンにコーチを置いて監視してもしょうがない。皆が自然に外側を走るように持っていかなければならない。自然とそういう方向になるように工夫。例えば、有名な選手なら、「○○さんでも内側回るんだー」とか言ったり。必要に応じて怒鳴ることもある。


目標設定

2年先のワールドカップ、しかもその時に自分が選ばれるかどうかもわからない中でどうやってモチベーションを保ってトレーニングさせるか。

志。高い目標。
一緒にやってみないかと伝える。人生でこんな機会そんなにない。こういうことを皆にいっぺんに言うと、周りの顔をみて動かない。

最初に1人1人呼んで話をする。その後全員に同じことを繰り返す。ベスト4に行くという目標。そんなことやっててベスト4行けるかと繰り返し問いかける。


スタッフのコミュニケーションが良かったと言われ、その理由を聞かれるが、特に何もしていない。本気でベスト4を狙うことを考えたら、それぞれの人が動く。ホペイロがスパイクを磨きながら選手が元気が無いと感じたら、それを伝える。コックが選手が食べる様子を見ていて残す人がいたら、それを伝える。

もちろんさまざまなことを工夫して試している。成功法とかいろいろやらせてみる。でも一番大事なのは全員がそれを信じること。


フィロソフィー

代表チームのフィロソフィー

  • enjoy
  • concentration
  • our team
  • improve
  • do your best
  • communication

フィロソフィーについて毎回話す。


enjoy

今ボールいらないという選手がいるが、なぜボールをほしがらないか。プレッシャーを受けてミスをすることを恐れている。
→ミスを恐れるなと伝える。


究極のenjoyとは、自分の責任でリスクを冒すこと。


日本の選手は、監督がココにいろって言ったからココにいましたという。しかし、それではプロの選手とは言えない。でも今まではそういうチームづくりをしていた。理屈で選手を納得させて勝つのが得意だった。


マリノス時代、1年目完全優勝。ロボットとは言わないが、自分の言うとおりに選手を動かした。
2年目、自分の判断でやらせる方向でやったら開幕4連敗。あわてて1年目のやり方に戻したら間に合って2年目も優勝。
3年目は今度こそということでトライしたがうまくいかない。
4年目もこりずにやったが、うまくいかず、家族の病気を理由に途中でやめた。逃げた。


マリノスをやめてからメチャメチャ勉強した。
日本人のいいところ、悪いところ
外国人のいいところ、悪いところ
4つあるが、このうちの、日本人のいいところはなかなか皆みない。他の3つしかみない。


ワールドカップの監督を引き受けたのには悔しい想いがあった。日本人でももっとできるはず。


50代になって初めて、選手が自分で判断できるチームができた。指導や教育とはコップに水を入れていくようなもの。educationとはコップに入っているものを引き出してやること。無いものは気づかせてやる。いかに勝ちたいという気持ちを引き出してやれるか。これを引き出せないと、皆守りに入る。言われたとおりにやる。


our team

誰のチームか。自分のチーム。


コンサドーレ時代の話
0-1で負けている中で残り10分の時に、ライン際を走るサイドバックが自分の顔ばかりを見ている。どうも、チームは負けてるけど、おれは言われたとおりやってるますというアピール。ええかげんにせい。0-1は会社で言えばモノが売れなくて倒産しそうな状態。そんな中に経理でいくら素晴らしい計算をやってもしょうがない。外に出てモノ売ってこい。


人のせいにするということは受け身。日本中の上司、先生、監督が自分にとって都合が良いわけがない。


ミスターマリノスと言われた選手の話
自分のプレースタイルを頑固に持っていて、方向性が合わず、1年間やって使わなかった。今のままだと残っててもしょうがないかもしれないがどうするかと聞くと、やらせてくださいという話。2年目はプレースタイルをガラっと変えて、その選手が優勝に貢献した。


concentration

今出来る事を精一杯やる。ベスト4行きたいって叫んで行けるなら毎日でも叫べばいいしかし、毎日できることは、毎日のコンディションの調整、試合でベストをつくすこと。今考えてもしょうがないことは考えない。ミスしたらどうしよう、ミスしてから考えれば良い。


ともかく一歩踏み出してみる。カラオケ3曲、1月で覚えるとかでもいい。なにかやってみる。その場にいてああでもないこうでもないと言っててもしょうがない。遠くを見ててもしょうがない。


運をつかみそこねないように必死でやる。神は細部に宿る。


選手だって右肩上がりばっかりの人はいない。なんのために今落ちているのか→より高いところに登るため。ジャンプするときは一回しゃがむ。これはより高いところに行くため。


感想

講演はここまででした。フィロソフィーの話の途中で終わってしまったので残念でしたが、1時間半という時間は感じず、引き込まれて聞いていました。


特に印象に残ったのは、南アフリカワールドカップでベスト16での敗退についてのコメントです。勝てなかったではなく、勝たせてやれなかった。自分視点ではなく選手視点で語っているのが印象的でした。


責任は自分にあるのが大前提の考え方。選手が悪かったとか運が悪かったとか他責にせず、自責での考え方です。


ワールドカップ後のインタビュー等で執着が足りなかったという話を聞いた時に、えーっ…と思っていたんですが、他責を排した上でいろいろ考えに考えて出てきた結論だったんだなと感じました。選手はよくやってくれたんだから後は自分に何か原因があると考えて突き詰めて出てきた話だと思います。


あと、講演後にいろいろ検索していたところ、今回の講演の内容と同じような内容の講演記事を見つけました。記事ではきれいにまとめられていて読みやすいのでこちらも参照しておきたいと思います。
Business Media 誠:岡田武史氏が語る、日本代表監督の仕事とは